日本国紀
百田 尚樹
幻冬舎
2018-11-12

国民の歴史
西尾 幹二
産経新聞ニュースサービス
1999-10


 『日本国紀』を,17円+送料で売られている『国民の歴史』と読み比べてみることをお薦めしたい。読み応えは全然異なるが,似た「願い」が背景にはある。

 「新しい歴史教科書をつくる会」の流れをくむ教科書は2つあるが,「自虐史観」を問題視していることは百田氏と同じで,「同じくくり」に入るものと考えられる。

 それにしても,『日本国紀』には,Amazonの600以上あるレビューのうち8割が星5つで,しかもそれらのレビューの中には「参考になった」という応援が4000以上ついているものもあり,一種のブームになっている。しかし,星1つのレビューを読むとわかるように,参考文献が書かれていないとか,百田氏も認めているようにウィキペディアを参考にして書かれている部分があるとか,5刷で書き換えられているところがあることを,1刷や2刷を買って読んでいる人には伝わらないとか,様々な問題点を抱えているようである。下で紹介する「副読本」では,最終校正の段階になっても書き加えたことがあるなど,実は「完成版」ではないことは明らかである。近いうちに「増補訂正版」が出るのではないか。
 
 『日本国紀』は,著者の意図とは別に,今の日本の実態がそのまま反映されているという見方ができると思われる。もちろん,たとえば40万部発行されて(1月3日の日本経済新聞・朝刊の全面広告では,55万部,とありました),すべて購入され,4分の1の人が全部読めたとして,10万人。これから読者も増えていくかもしれないが,受験生にはお薦めできない。際どい内容はそもそも入試問題では出題されないが,そもそも著者が批判している相手がつくる問題だから,相性がよくないのも当然である。

 

 実は私はこちらの本の方を期待していたのだが,編集者との執筆事情などのやりとりや20年前に聞いたことがあるような内容が多く,「副読本」「学校が教えない日本史」というタイトルからは,かなり逸脱しすぎていた。

 高校の山川出版社の歴史教科書と,中学校の学び舎の歴史教科書の批判本,とも言えるが,前者がメジャーな教科書であるのに対し,後者は採用している学校がわずかしかないマイナーな教科書である。他の著書にも似たようなものがあるが,「教科書に書いてあることしか学校は教えない」というのも一面的な見方である。育鳳社の教科書を使って学び舎のような内容を教えている教師もまだいるかもしれない。

 『日本国紀』のコラムにある「豆知識」のようなものをさらに深く掘ってみたりとか,できることはまだあるかもしれないが,やはりジャンルとしては歴史というより小説に近いものだと考えた方がよいだろう(小説には「内容」の引用元が示されることはまずない)。***『日本国紀』は「日本図書コード」では「0095(日本文学,評論,随筆,その他)」に分類されていることを教えてもらいました。***

 「借り物の知識」でも,情熱をふりかければ何とかなる,というムードは,昭和的なものが好きな人たちにはたまらないのかもしれない。ただ「恥」を知らない国民が増えることは,協力関係よりも敵対関係をつくる方向性をもちやすいので,注意しなければならない。「さらに強力な防衛力が必要だ」と主張していることをふまえれば,どういう方向に国民を誘導したいのかは明らかである。

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