発売から少し時間が経ってしまったが,素晴しい本を読むことができた。

 中学校教師である私は,クローズアップ現代の一部を視聴させて,生徒に議論させるという流れの授業を社会科で何度か実践したことがある。
  
 池上彰さんの番組は,すべて「分かりやすく説明してしまう」もので,授業には使えないが,「議論のための余韻を残す」クローズアップ現代のインタビューやVTRは,本当に教材としての価値が高かった。

 20年以上にわたる番組制作の全貌を描ききれない,というのは国谷裕子さんの言う通りだと思うが,その間に発し続けられた大切なたくさんのメッセージが,この著書にはしっかりとまとめられていると思う。

 池上彰さんのように,民放でも素晴しい番組づくりに励んでいる方もいらっしゃるが,NHKの存在意義を証明してくれる番組の最有力が,クローズアップ現代だった。

 存在意義が証明できることの一つが,「視聴者(インタビュー対象の支持者)からの苦情が寄せられることもあった」という事実である。

>この人に感謝したい,この人の改革を支持したいという感情の共同体とでも言うべきものがあるなかでインタビューをする場合,私は,そういう一体感があるからこそ,あえてネガティブな方向からの質問をするべきと考えている。その質問にどう答えるのか,その答えから,その人がやろうとしていることを浮き彫りにできると思う。日本語の何となくストレートに聞けない曖昧さをどうやって排除していくか,それは,インタビューをしていくうえで大きな課題だ。

 同調圧力が強い日本が,かつてその圧力によって国が崩壊しかねない悲劇を招いたことを,知らない人はいないはずである。

 危機を間近に感じれば感じるほど同調圧力が高まるという弱点を抱える日本人にとって,国谷さんのようなキャスターがいることは,非常に大きな財産であった。

 ジャーナリズムが失ってはならないものを訴え続けて,国谷キャスターのクローズアップ現代は最終回を迎えてしまった。

 最終回のゲストとなった柳田邦男さんは,「危機的な日本の中で生きる若者たちにハか条」を用意されていたということだが,番組では四か条として紹介された。著書の中で,国谷さんが全ハか条を掲載してくれている。私は,「若者」はもちろんだが,現役のキャスター,ジャーナリストたちに,この言葉を噛みしめてもらいたい。

>一 自分で考える習慣をつける。立ち止まって考える時間を持つ。感情に流されずに論理的に考える力をつける。

二 政治問題,社会問題に関する情報(報道)の根底にある問題を読み解く力をつける。

三 他者の心情や考えを理解するように努める。

四 多様な考えがあることを知る。

五 適切な表現を身につける。自分の考えを他者に正確に理解してもらう努力。

六 小さなことでも自分から行動を起こし,いろいろな人と会うことが自分の内面を耕し,人生を豊かにする最善の道であることを心得,実践する。特にボランティア活動など,他者のためになることを実践する。社会の隠された底辺の現実が見えてくる。

七 現場,現物,現人間(経験者,関係者)こそ自分の思考力を活性化する最高の教科書であることを胸に刻み,自分の足でそれらにアクセスすることを心掛ける。

八 失敗や壁にぶつかって失望しても絶望することもなく,自分の考えを大切にして地道に行動を続ける。



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