コンビニ人間
村田 沙耶香
文藝春秋
2016-07-27


 この小説は,「音」を手がかりに様々な状況判断をするコンビニ店員の話から始まる。「音」の描写だけで,その情景がありありと浮かぶ,という日常に溶け込んだ「コンビニ」の特性がよく表わされている。
 
 小説は「目で見たものの詳細な描写」から入るものが多いから,「音」から入るという斬新さに,思わず読むのを中断してしまった。
 
 「自分はどんな音を頼りに仕事をしているのだろう」と考えてしまったからである。
 
 教育の世界では,授業の評価をするときに,「大事なつぶやきが拾えたかどうか」が焦点になる場合がある。これはいじめの発見など,生活指導の場面でも重要な能力なのだが,最近,グループでの活動が増えてくることによって,10人以上がしゃべっている言葉を同時に処理しなければいけない時間が長くなってきている。集中力を要するので,けっこう疲れる。優れたキーワードが登場した班に近づき,議論の流れを把握しなければならない。もちろん,話し合いがストップしている班にも声かけをしないといけないが,自分の説明中にも,他の班の会話には耳を傾けている。

 教師にとっては「話し声」の聞き取りが,生命線の一つである。

 登下校時の挨拶,下駄箱やロッカーを開ける音,すのこの上を歩く音,傘立てに傘を入れる音,水道の蛇口をひねる音,出し過ぎた水の音,窓やドアの開け閉めの音,廊下を走る足音,チョークが黒板に当たる音,チャイムの音,放送の音楽やアナウンス,給食の配膳の音,先生の呼び出しのアナウンス,放課後ならバットやラケットにボールが当たる音,ランニングのときの声・・・ほとんどの人が,情景を思い浮かべることができる音が学校にもある。
  
 学校によっては「ノーチャイム」を行っているところもあるようだが,これは「時間が過ぎても話を続けたい教員」にとっては,都合のよい仕組みである。子どもに迷惑がかかっているようなら,やめた方がよい。

 昔はよく怒鳴っていたが,DVなどを原因としたさまざまな問題を抱えた子どもたちが増えたおかげで,ときと場合を「精選」することになった。

 やはり,「音」からはわからない表情や雰囲気から,「何か」を察する鋭敏さが教師には求められる。・・・と思ってやっと,小説の続きを読むことができた。

  
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